先に、桜に関して触れた。この時期はまた椿も見頃である。江戸では、関口椿山が名所とされた。ここは今「椿山荘」となっている。
残念ながら、今日ではその名所以外を見付けるのは難しい。
椿は、江戸では人気があり、園芸も盛んであった。今でも、庭に植えている家は多いものの、あまり観賞する人もいないようである。
そうした時、鵠沼の大家よりメールが届いた。それには、散歩の途中で椿に気付き、その思い出が書かれていた。
今や、首都圏で椿を楽しむには、それくらいしかないのかもしれない。
仕事場近くの路地でも、そこはビルの裏手になるけれど、椿が植えられているところもある。花を見ると、一瞬、仕事中ということも忘れ、立ち止まってしまう。
空は狭く、日当たりも悪いのに、咲いていたこと自体に、日常の小さな喜びを感じる。
朝日新聞社の『草木花歳時記 春上』でも、我が国原産で、世界中で愛されているとある。当然であろう。
こうした都会の小さな幸福は、何よりも得難いものである。
(第九百三十一段)