思い出の場所を数えてみる。まず、住んだことのある故郷や地元は外せず、他には学校生活を送った吉祥寺や相原である。意外と少なく、何らかで関わった地域も列挙する。
大船や小川町、日本橋は仕事関係、五反田や水道橋、六本木、池袋、代々木は勉学関係である。前者は利害関係が絡む組織ということもあり、楽しい思い出は少ない。一方、後者は利害関係が多少絡むものの、そうつまらなくもなかった。このため、前者と比べ未だ懐かしさはある。とはいえ、好きな町かと訊かれたならば、疑問である。
好きな町、一見簡単なこの質問は実は難しく、これまでのところ、故郷以外に好きな町はない。
例えば、一度、故郷に泊まり、朝から晩まで一日を過ごしたいと思うものの、現在、住んでいる場所まで電車で四十分弱となると、なかなかそうした機会はない。始発に乗り、終電で帰っても問題がないわけである。ただ、気分的に落ち着かないだけである。
偶に、故郷の学級委員に会うために訪れた時など、日差しや空気に二十年前と同じ雰囲気を感じる。
(第六百九十一段)