文楽終了後、隣りの国立大劇場で行なわれている前進座の公演へ足を運ぶ。
今回は、七代目嵐芳三郎襲名披露の口上があり、それに続き、『切られお富(処女翫浮名横櫛)』が演じられる。
この演目は、初めてである。
後ろに座っていたかなり高齢のふたり連れのうち女性が、この芝居を観るのは初めてだという。
男性は、戦前に観た記憶があるとのことである。
かつてあった新富座の話しまでしている。
このふたりは、戦前より芝居を観ていたらしく、最近の歌舞伎における拍手に関し、物事を知らないと嘆いている。
元々、歌舞伎は日本のもので、そうした西洋的な風習は合わないということだろう。
ふたりによれば、それまでの日本人というのは、拍手より声を掛けていたわけで、その方が相応しいと話している。とはいえ、現在では、変なところで声を掛けると、芝居を壊すとの理由で、その種の会に入っていないと声を掛け難い雰囲気となっている。また、足繁く通う人が少なくなったことも関係している。
(第二千四百六十二段)