先の続きである。
故郷における隣組の組長夫人は、その立場からも分かる通り、近所では放送塔のような存在であった。
例えば、占い師に見て貰ったところ、「あなたは手八丁口八丁で」と言われ、怒っていたのだが、性格を知る周囲は誰もが納得していたという。
また、組長夫人の近所に住むある家の親戚筋に関取がいた。
その力士がそこの家を訪れた時、組長夫人も偶然おり、「この近辺の人たちは、皆、あんたを応援しているよ。」と奨励した。力士は「ごっつあんです。」と答えていたが、お金のないタニマチばかりだったので、周囲は苦笑いをしていたらしい。
更に、別の家では電気冷蔵庫が入ると、早速、見学に行き、ドアを開けたり、閉めたりし、確認していたとのことである。
そこでは、中を開けてみて、乳飲料が一本しかないのを見て、「これでは新しいのを買っても、買わなくても同じではないか。」と言った。
これを聞いた人は、「開ける方も開ける方だ。」と呆れていた。
一年中着物姿だった、その名物婆さんも亡くなり、二十年以上の月日が流れた。
(第二千二百十段)