会社近くの鮨屋へ入る。初めての店である。
土曜の昼時ということもあり、誰もいない。ビルの地下の店なので、入り難いのだろう。
ここで、握りの大盛りを頼むと、いくら、穴子、海老の何れかが付くがどれが良いかと訊かれる。
迷わず、穴子にする。職人の仕事が分かるからである。
それにしても、この職人の握り方を見ていると、真似をしたくなる。型に見惚れる。
見惚れながら、食べていると、職人より、会社が近くなのかと話し掛けられる。
鮨屋では初めての経験である。
素性が分かったからか、握り終わった後、新子の仕込みをしながら、色々と話し出す。
お互い黙っているより、こうした遣り取りは面白い。それだけ、日常で、人間関係が希薄となっているためだろう。
黙っていても、何でも買い物が出来る時代なものの、そこには温かみがない。
(第千四百二十三段)