レストランを出、東京に戻ることにする。佐貫の酒仙も東京に出る。酒仙の家を考え、船橋辺りで飲もうかと思っていたところ、時間は未だ二時半近くで、店は開いていない。
そこで、二月の江戸年中行事追体験で、酒仙が行きたいと言っていたけれど、訪れることが出来なかった谷中に行くことにする。また、そこまで行くならば、鶯谷近くの江戸から続く豆富料理店に足を向けるのも悪くはない。
谷中は日暮里より近く、京成で一本である。佐倉から特急で約一時間なので、時間的にも良い。ただ、車内は海外からの帰国者で座れない。座れたのは津田沼を過ぎた頃である。
日暮里で下車し、酒仙の行きたがっていた谷中銀座を歩く。ここには店主と客の日常の会話が残る。挨拶が自然に交わされる。
この後、鶯谷の豆富料理店に行く、下足番がいる。
座敷に座ると、滝が見える。ここの名物は餡掛豆富である。まずはそれを頼む。
漸く、味において江戸年中行事追体験らしくなった感じがする。ただ、ここは食がメインであり、酒に関してはやや物足りない。そうした中、目を引いたのは豆富のワインである。豆富は繊細な味だが、これには果汁が入っていることもあり、甘味が強い。それでも、ボトルが空になる頃には確実に酔いは回る。
(第七百三十段)