隅田川の花火大会で佐貫の酒仙に会った折り、三館の美術館の招待券を貰う。三館とは礫川浮世絵美術館、竹久夢二美術館、それに弥生美術館である。これらの招待券を酒仙は会社の先輩に貰ったらしい。
正直、浮世絵以外はそう関心もなく、また招待券なので行くか否か迷ったけれど、礫川浮世絵美術館の近くということもあり足を延ばす。
八月の第一土曜日、礫川浮世絵美術館は十一時からのため、眼科に寄って、瞳孔を開き眼底検査をしてから訪れる。
その最寄駅は後楽園か春日である。ただ、新宿からとなると、水道橋から歩いた方が近い。時間的には十分くらいなものの、瞳孔が開いた状態なので、表は光が眩しく、クリップ式のサングラスを掛ける。
勿論、漸く見付けた礫川浮世絵美術館内では外す。外さないと色遣いが分からない。
ここは雑居ビルのワンフロアにあり、中ではスリッパに履き替える。『「美人・奇術・妖怪」の納涼浮世絵展』が行なわれ、未だ十一時過ぎなのに、結構、人が訪れる。食い入るように眺めている。
展示品は見たところ、奇術の浮世絵が多く、次に妖怪の出て来る黄表紙が目に付く。美人絵は少ない。
(第七百十一段)