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解談丸稀談(やくもたつ)

暦の上では既に秋である。日中は未だ残暑だが、朝晩など秋の足音が聞こえ始めている。文月末頃の蒸し風呂状態だった暑さが嘘の様ですらある。
夏の思い出を振り返ると、ふたつほどこれまでにない経験をした。
ひとつは稲妻をこの目で見たことである。まるで、眼底における血管である。特に水平百八十度方向だったこともあり、尚更印象深い。マルチン・ルターの気持ちが分らぬでもない。その様な経験でもしなければ、修道士を目指すはずがない。尤も、そうなると宗教改革もなかったわけで今頃どうなっていたのだろう。
何はともあれ、鳴神と言われることだけはある。
もうひとつは人魂である。芝居以外ではお目に掛かったことがない。
その夜自宅近くのことである。前をふたりの高校生が歩いていた。行き成り三階くらいの高さにそれは現れ、野球でいうフラフラとした打球が落ちてくる感じで、芝居で見かけるそれとは明らかに異なるものである。気付いた若者のうち、ひとりは流れ星だといい、もうひとりは花火だといった。とはいえ、その青白さは燐の発火に違いない。仮に花火の落下ならば、先日佐貫の酒仙と大川で見たばかりである。消滅する際、掻き消されるようであったと記憶している。また、流れ星ならば、そんな低い位置に突然現れて、風に煽られるように不規則な落下運動をするであろうか。
別段、その正体は燐なわけだから、恐怖心はなかったが、それで感じたのは落ちこぼれの人魂だろうということある。かなり芝居や漫画・動画的な発想かもしれないけれど、現実ではこの間までなら考えもしなかったことが起こっているわけであり、突拍子な考えでもないだろう。
今の若者は夢がないのか、最後まで人魂とは口にはしなかった。
(第四十五段)
by akasakatei | 2002-08-16 12:22 | 余暇 | Comments(0)
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