酒仙邸では、ドアを開けると、すぐに犬が出て来る。メスという。足元の匂いを嗅ぐから、ふと噛みつかれるのではと思う。犬が嫌
いだから仕方がない。
こうなると、お宅を拝見している渡辺篤史氏は凄いと単純に感心する。
今回の最大の目的は、犬の散歩で、一度もしたことがない。嫌いなのに、何故する気になったか。どういうものか、知りたかったからだ。
ところが、最初の出迎えで、やや弱気となる。これで、町内を散歩出来るのか。
酒仙に縄を渡され、表へ出ると、犬が先に出た酒仙に付いて行く。結構、重さを感じる。引っ張られる力には、速度も関係しているに違いない。
酒仙が犬に声を掛ける。果たして、人間の言葉が通じるのか一瞬考える。
それでも、歩いて行く間に、段々と馴れて来た。
二十分ほど町内を一周する。特に面倒なこともなく、安心する。何かあれば、すぐに民法で問われるだろう。
酒仙邸に戻り、脚を拭いた後、「お手」と手を出すと、片脚を出す。「お代わり」というと反対を出す。
結局、犬嫌いは変わったのか。
(第二千六百十段)